公開日:2015年12月20日

高血圧症の個別栄養指導パンフレットの作り方

はじめに

現在、我が国の高血圧人口は4300万人に上るとも言われていますね。

高血圧は腎臓病、心疾患、大血管疾患、脳卒中など重篤な疾患を誘発すると言われています。

高血圧性合併症による死亡率の上昇を阻止する為、発症予防と進展防止の為の標準的治療法が重要です。

高齢化社会の急速な進行、食の欧米化等が進む社会に於いて、エビデンスに基づいた高血圧治療の対策と予防は急務となってきています。

ここでは高血圧の疫学を十分理解したうえで、治療の基本方針、食事療法、対象者毎の治療のポイントについて解説します。

目次

高血圧の疫学。

高血圧と腎臓病、心疾患、大血管疾患、脳卒中の予後について説明できるように表に示しておくと良いでしょう。

高血圧症は自覚症状がないことも多く、治療の動機づけが難しい場合がしばしばみられます。

始めにそれを示すことで、治療の動機づけにつながりやすくなるので、指導の導入に持ってくると良いでしょう。

血圧測定と臨床評価。

高血圧ガイドラインの「成人における血圧値の分類」や「高血圧患者のリスクの層別化」「心血管病の危険因子」などの表を載せておくと、患者自身が自分の身体の現状を把握することにつながります。

治療の基本指針。

生活習慣の修正目標を箇条書きにします。

食塩制限

基本的に6g/日未満とすることを指導します。

一般的な調味料や料理に含まれる塩分量の目安を一覧にしておきます。100gあたりで示すより大さじ、小さじ、ひとつまみ、少々など家庭で利用される計量法や手計りで示すほうが分かりやすいです。

加工食品の食塩含有量も併せて記載しておきましょう。

また、既製品や市販品の食品成分表示はナトリウムで記載されていることを伝え、ナトリウム換算式(食塩相当量(g)=Na(㎎)×2.54÷1000)を挙げておくと分かりやすくなります。

天然塩などを使用し、ミネラルを多く含むことを売りにした商品も多く見られますが、ミネラル等を含んでいても殆どの成分はNaClでなので、食塩相当量としては通常の食塩と変わらないことも説明します。

減塩についての工夫を挙げておくことは大切です。

香辛料をうまく利用する方法や、調理法の組み合わせ、酸味の利用、新鮮な食材を用いて、持ち味を生かすことなどを箇条書きにしておくと良いでしょう。

また、麺類の汁物は残すこと、汁物のおかわりはしないこと、漬物は手作りの浅漬けにすること、かけ醤油はやめること等男性や高齢者でも簡単に取り組むことができる減塩法についても挙げておきましょう。

だし醤油や減塩醤油、減塩みそなど減塩補助食品の紹介もしておきましょう。

ただし、減塩補助食品は腎疾患が進行しているケースなどでカリウム制限がある場合、使用できないものもあるのでそれも併せて説明しておきます。

販売されている店頭も一覧にしておくと良いでしょう。一般店頭で販売されていない特殊な商品はカタログを別添しましょう。

減塩による血圧降下のエビデンスとしてグラフなどを示しておくのも動機づけにつながるでしょう。

野菜・果物の摂取。

野菜は緑黄色野菜、淡色野菜合わせて350g程度摂取することと、350gの目安(生の状態で両手いっぱい100g等)を明示します。

カリウムとナトリウム排出の関係について、食物繊維と血圧の上昇抑制についての説明文もつけておくと良いでしょう。

果物は1日50~100g程度摂取するよう指導します。野菜同様カリウムとナトリウム排出の関係について説明します。

ただし、腎障害や糖尿病、脂質異常症(高トリグリセリド)、肥満を合併している場合には生野菜、生果物が推奨されない場合や量の制限があることがあるので、併発している疾患についての確認を事前に必ず行っておきましょう。

栄養指導パンフレットに注釈としてその旨を記載しておくことも大切です。

カルシウム、マグネシウムについても有意な降圧効果が示されているので勧めます。

多く含む食品の一覧を示しましょう。

適正体重について。

BMIの算出法(BMI=体重(㎏)÷身長(m)×身長(m))を患者の身長、体重を書き込めるようにして示すことと、適正体重も記載できるようにしておきます。

肥満(BMI25以上 )を伴う患者には高血圧性合併症の誘発因子になることと減量の重要性を示します。

生活活動強度などと併せて、患者の1日の摂取エネルギーの目安を書き込めるスペースを設けても良いでしょう。

脂質について。

高血圧と高コレステロール血症との合併は、動脈硬化のリスクが増大することからコレステロールを多く含む食品を控えるよう指導します。

コレステロールを多く含む食品の一覧を載せておきます。既に高コレステロール血症を併発している場合は1日300㎎程度に抑えることと、その目安についても挙げておきます。

不飽和脂肪酸とトランス脂肪酸はLDLコレステロール値を上昇させ、心血管疾患を誘発する為控えるよう指導します。多く含む食品の一覧を載せておきます。

ただし、乳製品にはカルシウムが多く含まれ、血圧降下作用や骨の形成作用もある為、1日の摂取量を示しておくと良いでしょう。

単純に脂肪を控えるということではなく、質と量が大切である旨も記載しておきましょう。

n3多価不飽和脂肪酸(魚介類)の積極摂取と血圧降下作用についての有用性を示す研究もあるので、血圧降下作用と併せて1日の魚の摂取量や種類についても指導できるようにしておきます。

厚生労働省と農林水産省が作成した「食事バランスガイド」を載せておくこともお勧めです。

アルコール制限。

高血圧では原則禁酒を勧めますが、血圧の急昇がない場合はエタノールで男性20~30ml/日、女性10~20ml/日以下の量(日本酒で1合以下、ビールで中ビン1本、ウィスキーダブル1杯、焼酎半合、ワイングラス2杯程度)までを上限として許可できます。絵図などで一覧にして示しましょう。

摂取量を自覚させる為にアルコール摂取の記録表を添付しておくのも良いでしょう。

特定保健用食品。

特定保健用食品は効果を医学、栄養学的に証明し、健康に対してどういった機能があるかということを表示することについて、健康増進法の許可、または消費者庁長官の承認を受けて食品に表示されるものです。

患者からしばしば質問も出ます。

「血圧が高めの人」の特定保健用食品に利用される成分には、杜仲葉配糖体、カゼインドデカペプチド、かつお節オリゴペプチド、ラクトトリペプチド、わかめペプチド、γ‐アミノ酪酸、酢酸、といったものがあります。

各成分について簡単な説明を箇条書きしておくと慌てません。ACE阻害が作用機序に基づきますが、1日の摂取目安について守ることも明記しておきましょう。

対象者指導留意点。

高齢者。

高齢であっても減塩とBMI25を超える場合はエネルギー制限が基本になります。

しかし、極端な減塩は季節によっては発汗量によって脱水を引き起こす可能性があることと、永年の食生活の是正はQOLの低下と栄養指導への拒否につながることもあるので、患者本人の意志を尊重しながらできそうなことから提案する必要があります。

また、減塩による食欲低下と低栄養についても十分留意します。特に入院患者の場合、食事摂取量が少ない際は減塩食でなくても、体内に取り込まれる塩分量は必然的に少ないので、敢えて減塩の指導をする必要がない場合もあります。

むしろ、確実な食事摂取を優先とし、カリウムやカルシウム、食物繊維の摂取を第一とする場合もあります。

独居の場合は調味料の計量など難しい場合もあるので、簡単に取り組める減塩食のポイントのみ箇条書きにして挙げておいたほうが行動変容に結びつきやすいです。

調理が難しい場合は宅配サービスの利用を勧めます。その際は減塩食のあるサービスを紹介します。

女性。

妊娠中、閉経後などはホルモンのバランスや精神面でも変化が起きてきますので、指導のうえで配慮は必要です。

妊娠高血圧症では胎盤血流量が低下すると言われており、通常は高血圧の場合減塩指導を行いますが、過度の減塩は勧める必要がありません。ただし、妊娠以前から高血圧症であった妊婦に対しては継続して減塩指導を行います。

重症、軽症の診断に応じて食事療法より薬物療法を主とすることも留意します。妊娠高血圧症の栄養指導では事前に確認しておきましょう。

小児。

小児で肥満がある場合、成人した後に本態性高血圧、肥満に移行する率が高いので、肥満の是正が重要になります。塩分摂取量を減らす指導より、適正な栄養配分や食品摂取量を示すことや、スナック菓子など塩分を多く含む間食を控えることにポイントを置いた指導が効果的です。

小児の場合親に対して指導を行うことが主になりますが、可能な限り本人にも指導を受けさせることが大切です。幼少時の減塩は血圧上昇を抑制すると言われており、予防的指導は大切です。

本人も一緒に指導することを前提として、食糧構成表で1日の食品摂取目安を示すより、厚生労働省と農林水産省が作成した食事バランスガイドのほうが絵図で分かりやすく、食品選びのイメージが湧きやすいでしょう。

指導媒体として、市販の菓子や惣菜、ファストフードとそれにどの程度食塩を含むかを、実際計量した塩を用いることも視覚に訴えた指導になり効果的です。

まとめ

高血圧に限りませんが食事療法を行ううえで年齢層、対象者毎に考えていくことが大切です。

若年者ほど減塩は有効であり、厳格な血圧コントロールが必要ですが、高齢者は永年の食習慣なども考慮する必要があります。

また、入院中の患者は病院食が指導媒体の一つとなりますが、外来で行う指導では減塩食のイメージが持ちにくいことや、徹底した食事療法の実行が難しい分効果が現れるのに時間を要します。

高血圧の治療効果は速効性がありません。長期的計画のもとに食事療法は行われる必要があります。

栄養指導も長期戦になる為、栄養指導パンフレットもシリーズ化して作成するのも継続治療をさせるうえで効果的です。

長期支援が必要となる栄養指導で大切なことは、患者に寄り添うことです。

身体状態やQOLを確認しながら、その患者が何をポイントに食事療法を行えば効果的かを検討しつつ栄養指導を行いましょう。

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